◆「夾竹桃咲いて悲しき町となり」
明日は広島の原爆の日だ。この季節を迎えると、私の心にひとつの俳句を通して感じたことが思い浮かぶ。俳句は、
「夾竹桃咲いて悲しき町となり」
その思い出を最初に綴ったのは2015年。その3年後にも日記のようにそのことを少し書いたが、ことの起こりはたしか2009年か2010年の夏のことだ。
ここにそのことを記録した文章(覚え書きのようなもの)を置いて「夾竹桃」にまつわる思い出を刻んでおこうと思います。始めに2018年の記述。
2022/8/5記
◆2018/8/6の記述
今日職場に行くと広島の平和公園の実況放送がついていた。8時15分になると上司が、みなさん一緒に黙祷しましょうと言った。10数人の同僚と静かに黙祷した。黙祷して数秒間心の雑念を払い、赤い花の名前を探した。そうだ夾竹桃だ・・・一つの俳句が今年も再び心の中から沸き上がってきた。・・・夾竹桃咲いて悲しき町となり・・・切ない思いと共に涙が込み上げ、止めることができなかった。
以下はその3年前の記述です。
◆2015/8/6の記述
「夾竹桃(きょうちくとう)」
東北生まれの私は幼い頃広島、長崎、原爆と言われても、あまり身近には感じなかった。幼稚園のころの私には、福島から見て都会といえばせいぜい東京、横浜が心の視界に映るすべてであり、その先(西のほう)に何があるのか、殆ど考えたことがなかった。
井の中の蛙と言われれば仕方ないと思う。が、さして不便も感じなかったし、恥ずかしいという気持ちもなかった。
大学時代は前橋で過ごした。ついに買うことはなかったがチェロが弾きたくてアルバイトに精を出した。
夏休みに8月6日になると、テレビを見ながら黙祷を捧げた。
結婚して祖父の33回忌で親戚のおばさんから家内が広島県出身ということを心配して、原爆(の後遺症)はどうなの？と尋ねられたとき、改めてはっとして、おばちゃん大丈夫だよ、広島から随分と離れてっから、と答えて一緒に安心したように笑ったことがある。
それからも特に8月6日は意識するともなく朝8時15分になると毎年自然に黙祷を捧げてきた。
今朝も黙って職場で黙祷を捧げた。
苦しかっただろうな、熱かっただろうな、、、という思いが心の中で駆け巡ることはあったが、黙祷を捧げたり考えたりして涙が流れることは50才を越えるまでついぞ一度もなかった。
しかし、今から5～6年前の夏のある日早朝のラジオに耳を傾けていて、一つの俳句が読み上げられたとき、忽然と涙が溢れて止まらなかったことがある。
原爆の広島をうたった俳句だった。
こんな俳句だ。
「夾竹桃咲いて悲しき町となり」
(今年も夾竹桃が咲いた、その夾竹桃が咲くと原爆を受けた広島の町が私の目の前に甦る、というほどの意味であろう)
広島に住むある老年を迎えた婦人からの投稿だと、その番組は言っていた。被爆体験から作った俳句とのこと。
原爆で焼かれた広島は初めのころ50年間は草木も生えないだろうと言われていたとのこと。しかし、しばらくするとなんと夾竹桃が咲き始めたのだという。
真っ先に咲いて広島の人々を励ました夾竹桃。後に夾竹桃は市の花となる。
その俳句がラジオで読まれる前、私ははっとして目を見開いた。ラジオのアナウンサーがこう言っていたからである。
これから広島にお住まいの野崎さんというご婦人の方から寄せられた俳句をご紹介します、と。同じ名前だったのだ。同じ名前でしかないが私はじっと聞き耳を立てて、俳句が読まれるのを待った。
そして静かに俳句が読みあげられた瞬間、私の目の前に原爆で焼けただれた広島の町、広島の人々の姿が忽然と映し出されたのだ。生々しい様だった。思わず息を飲んだ。なんという悲惨。
言葉がなかった。
わたしはなにかで頭を殴られたような衝撃を覚えて、涙を止めることが出来なかった。今でもその感覚は残っていて時々まぶたによみがえる。
夾竹桃 咲いて
悲しき 町となり
2015/8/6
「夾竹桃」
夾竹桃 赤い花
咲いて 咲いて この町は
悲しき 悲しき 町となり
悲しき 悲しき 町となり
夾竹桃 白い花
咲いて 咲いて この町は
悲しき 悲しき 町となり
悲しき 悲しき 町となり
咲いて 咲いて この町は
悲しき 悲しき 町となり
悲しき 悲しき 町となり
2019夏 作詞・作曲 historyninjin
